家の中を勝手に掃除してくれるロボット、会社に初めて来た取引先を適切な部署に案内してくれるロボット、自動でモノを製造してくれるロボット……。近年、さまざまな場所にロボットが導入されています。
このロボットを導入する際、機能や安全性、価格などと同じように重要な要素が、ロボットのバッテリーです。
この記事では、ロボットのバッテリーで知っておきたいポイントを紹介し、その上で産業用ロボットにどんなバッテリーが使われてるか解説しています。ロボットの導入に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
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1.ロボットバッテリーを知ろう!どんな種類がある?12V・24Vの違いは?
(1)ロボットのバッテリーとは
バッテリーとは、正式には「二次電池」または「蓄電池」と呼ばれ、充放電を繰り返し行える電池のことです。車両用の鉛蓄電池のことをバッテリーと呼んでいたことから、蓄電池全般をバッテリーと呼ぶようになりました。
現在、バッテリーは、さまざまなロボットにも使用されています。身近なところだと、家庭用のお掃除ロボットがあげられるでしょう。お店や会社にあるガイドロボットや清掃ロボット、警備ロボットなどのサービスロボットにも用いられています。
後ほど詳しく説明しますが、製造現場や物流倉庫で活用されているロボットにも搭載されています。
(2)バッテリーの種類
ロボットのバッテリーは、素材によって種類が分かれます。
①鉛蓄電池
1950年頃から自動車電池として急速に普及が進んだ、電極に鉛を使用している二次電池です。主に自動車や小型船舶、小型飛行機等のバッテリーとして使用されています。
普及が進んでから70年経った現在でも使用されていて、フォークリフトや自動搬送ロボット(AGV)にも使用されています。
②ニッケル水素電池
電極にニッケルと水素吸蔵合金を使用した二次電池です。
これまで、ニッケルを用いた電池と言えば、「ニッケルカドミウム電池」が主流でした。しかし、ニッケル水素電池のほうが、ニッケルカドミウム電池よりも充電可能容量が大きい、廃棄する際に有害物質が出ないので環境に優しい、といった点から前者への置き換えが進んでいます。
ニッケル水素電池には特徴の一つとして、「メモリー効果」があります。メモリー効果とは、二次電池の容量がまだ残っている状態で継ぎ足しで充電を繰り返すと、その充電を繰り返した付近を最大として記憶して電圧が低下する現象です。メモリー効果が起きた場合は、一度二次電池の容量を完全に使い切ってから充電「リフレッシュ充電」をすることで回復します。
ニッケル水素電池は、ロボット以外にも、デジタルカメラや携帯音楽プレーヤー、ハイブリッドカーにも用いられています。一次電池の置き換えとしても広く普及しています。
③リチウムイオン電池
電解質中のリチウムイオンが、正極と負極を移動することによって充放電を繰り返す二次電池です。軽量かつ大容量の電力を蓄えることができ、ロボットによく用いられています。
リチウムイオン電池は、正極・負極に使用される素材や電解質の違いで特徴が異なります。たとえば、ドローンに主に使用される「リチウムポリマーバッテリー」は、通称リポバッテリーと呼ばれ、大容量で大出力なのが特徴です。
リチウムイオン電池は、ニッケル水素電池と違い、メモリー効果による電圧の低下現象はほとんどみられません。
一方で、過度な充放電を繰り返すことで電池容量が低下する現象があります。リチウムイオン電池が0%になるまで使い切ったり、100%になっても充電をし続けるといった使い方を繰り返し行うと、リチウムイオン電池は劣化するとされています。そのため、劣化を防ぐためには、0%まで使い切らずに充電する、100%の満充電になる前に充電を終わらせるのがポイントになります。
リチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコンなどの持ち運べる小型の電子機器や、消費電力の大きい自動車などでも活用されています。
(3)12Vと24Vの違い
ロボットのバッテリーは、12Vのバッテリー、24Vのバッテリーとしばしば聞かれます。これは、ロボットバッテリー内部にある、セルと呼ばれる個々の電池の数の違いです。
たとえば、鉛蓄電池の場合、1セルで2Vの電圧が発生するため、12Vのバッテリーは6セルを直列接続してパッケージされたものを意味しています。一方、24Vのバッテリーは、その12Vバッテリーを2つ接続したものです。ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池は1セルの公称電圧は1.2Vで、リチウムイオン電池の1セルの公称電圧は3.2~4.0Vのため、セルの数が変わります。
12VのバッテリーはRCロボットや家庭用のコミュニケーションロボットなどの小型ロボットに、24Vのバッテリーは自動搬送ロボットなどに主に使用されています。
(4)リチウムイオンバッテリーの安全性
一般的には鉛蓄電池よりも、リチウムイオン電池の方が軽量で大容量、急速充電ができるため、鉛蓄電池からリチウムイオン電池への置き換えが進んでいます。
ただし、リチウムイオン電池は使い方を誤ると発火や破裂する恐れがあります。発火原因は製造上の欠陥や設計上の不備が多くみられますが、たとえば、ユーザーの過度な充放電や落下させたダメージによるケースも少なくありません。
また、互換バッテリーから発火する事故も急増しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)によると、2014年度~2019年度までのリチウムイオン電池の互換バッテリーが関係する事故が73件。このうち2018年度は13件、2019年度にいたっては49件でした。
(引用:急増!非純正リチウムイオンバッテリーの事故 ~実態を知り、事故を防ぎましょう~p.5)
メーカ純正のバッテリーに比べて、互換バッテリーは安価で手に入れやすいメリットがありますが、取り扱いには十分に注意する必要があるでしょう。
(5)バッテリーの開発
リチウムイオン電池は、登場してからこれまで、携帯電話から人工衛星まで多種多様な用途で活用されてきました。また、開発も盛んに行われ、近年だと安全性を向上させたチタン酸系やリン酸鉄系のリチウムイオンバッテリーが作られ、モバイル医療機器や電動自動車に用いられているケースもあります。
ただ、リチウムイオン電池の性能向上の限界も見え始めており、リチウムイオン電池のエネルギー容量を上回る次世代二次電池の必要性が高まっています。
そこで、今活発に開発が進んでいるのが「全固体電池」です。全固体電池とは、これまで電流を発生させるために必要な液体の電解質を、固体にした仕組みの電池を指します。
従来の二次電池の電解質は凍ったりして固体化すると電気を流さなくなりますが、全固体電池は高いイオン伝導性を持つ固体電解質により電気を流し続けられます。電解質を固体にすることにより、これまで致命的な事故が起こる原因とされてきた電池の液漏れがなくなるため、飛躍的に安全性が高まることになります。
そのほか、全固体電池のメリットは次のようなことがあります。
- 小型で高エネルギー容量が可能
- 超高速充電が可能
- 薄型や折り曲げることで自由に設計できる
- 長寿命で使用温度範囲が広い
村田製作所では、2021年初めに全固体電池を量産すると発表しています。補聴器などへの採用以外に、ロボット向けなどの位置制御機器や工場などで環境データを収集するIoT機器などにも採用するとしています。
(参考:いよいよ21年初めに量産へ!村田製作所の全固体電池は何に使われる?)
2.産業用ロボットバッテリーにはどんなものがある?種類や主要メーカを一挙紹介!
さまざまな移動するサービスロボットにバッテリーは使用されていますが、産業用の据え置きロボットや、自動搬送ロボットにもバッテリーは用いられています。
この章からは、産業用ロボットのバッテリーについて解説します。どんな種類があるのか、主要メーカはどこかなどをご紹介しますので、バッテリーを購入するときやロボットを導入するときの参考にしてみてください。
(1)産業用ロボットバッテリーの種類
①バックアップバッテリー
バックアップバッテリーとは、産業用ロボットに蓄積されたデータをバックアップするためのバッテリーです。
以下の表を見てわかるように、バックアップバッテリーは、何をバックアップするのかによって種類が分かれます。購入するときは、用途に合ったものかどうかチェックすることが大切です。
バックアップバッテリー | 特徴 |
エンコーダバッテリー | ロボットの原点位置情報をバックアップするバッテリー。バッテリーの価格は約3,000円で、メーカ推奨交換年数は1~3年。 |
システムメインバッテリー | コントローラ内にあるプログラムやポイントデータ等をバックアップするバッテリー。バッテリーの価格は約5,000円で、メーカ推奨交換年数は3~5年。 |
ほかに、ロボットによっては「ティーチングペンダントバッテリー」を使用している場合もあります。
バックアップバッテリーは充電式ではないため、メーカ推奨の交換年数があります。また、バッテリー全般に言えることですが、ロボットが停止している間も自己放電するため、長期休暇の際はバッテリー切れに気を付けなければなりません。
②48Vバッテリー
48Vバッテリーは、一般的に使用されているバッテリーの中で、高電圧ながら最も安全に使用できるバッテリーとして普及が進んでいます。システムを保護する手段を省くことができる分、コストの削減ができるのも特徴です。
製造現場では、AGVなどの自動搬送ロボットに活用されています。ほかにも、48V配電が使用されているクラウドコンピューティングの最新アプリケーションなど、その用途は多岐に渡ります。
(2)バッテリー製造の主要メーカと主力製品
続いて、バッテリーを製造している主要メーカには、どんな主力製品があるのかご紹介しましょう。
①トーカドエナジー株式会社
トーカドエナジーの電池事業は、企画から生産までワンストップサービスで行っています。グローバルリソースにより低コスト・安定生産を可能にし、顧客のニーズに合わせて小ロット・高難易度生産にも対応している企業です。
トーカドエナジーの主力製品は、動力・蓄電用途向けの24V系標準リチウムイオン電池モジュール「EB -101&専用充電器」になります。
597Whと大容量で、ロボットの長時間を稼働させることが可能。加えて、着脱交換式なので、簡単に稼働時間の延長もできます。また、約5kgと軽量で、ハンドルがついているため交換も簡単です。バッテリーを複数交換しながら使用することを想定して2ch専用充電器も提供しています。
そのほか、近年普及が進んでいる48Vバッテリーの、リチウムイオン電池モジュール「EVB-101」も提供しています。
②株式会社村田製作所
株式会社村田製作所は、”Innovator in Electronics(エレクトロニクスの改革者)”をスローガンとしている企業です。電池事業でも、最先端技術を駆使して開発を行っており、前述したように全固体電池の量産も予定しています。
村田製作所の主力製品は、「FORTELION 24Vバッテリモジュール」です。オリビン型リン酸鉄リチウム電池を搭載しているため、10年以上の長寿命が期待でき、安全性も非常に高く、高速充電も可能となっています。24Vシステムを一つのバッテリマネジメントユニットとして構成していて、従来の12Vバッテリーと同等のサイズというのも特徴です。
また、ロボットや自動搬送車、電動カート、フォークリフトなど、幅広い用途で電流や電圧をカスタマイズして活用もできます。
③マクセル株式会社
マクセル株式会社の電池事業は、コアコンピタンスである「アナログコア技術」を基にロボットやドローンのバッテリーだけではなく、次世代電池の開発に取り組んでいます。
医療・ヘルスケアパッチ等を用途とした薄型フレキシブル電池や、IoMT・ウェアラブル機器等を用途とした高出力・高容量ボタン型二次電池を開発中です。また、全固体電池は2019年からサンプルの提供を開始していて、現在生産準備中となっています。
マクセル株式会社の主力製品は、「インテリジェントパック7S(ラミネート形)」で、ラミネート形7セルを採用した24V系の充電式電池です。軽量で安全性に優れていて、残量が一目で分かる残量計も搭載されています。交換式タイプとロボットに内蔵するインナータイプがあり、目的に応じて選択できるのも特徴です。
④パコ電子工業株式会社
パコ電子工業株式会社は、ニッケル水素バッテリーやリチウムイオンバッテリー、ポータブル電源等の放送通信機器の製造から販売まで行っている企業です。
ニッケル水素バッテリーを中心に高品質で長寿命な製品を多彩に取り揃えています。また、専用の工場で熟練のスタッフが一つ一つ丁寧に手作業で組み立てを行い、動作試験に合格した厳選された製品のみを出荷しています。
パコ電子の主力製品は、大容量の648Whで24V系のバッテリー「高容量ロボット用バッテリー」です。ほかにも、大電流に強い自動車用セルを用いて、大電流対応電池のカスタム制作もしています。こちらは、ロボット以外に、ドローンや大型特機などに適した電池です。
3.産業用ロボットバッテリーを購入するなら……事前に知っておきたいポイント3つ
次に、産業用ロボットバッテリーを購入する上で、事前に知っておくと役に立つポイントを3つご紹介します。
(1)バッテリーの選定
バッテリーを選定するにはまず、「どこで」「どんな目的に」「どう使うか」を考えてみましょう。例えば、「製造工場で」「自動搬送ロボットに」「長時間稼働させたい」といった具合です。その上で、バッテリーの「電圧」「容量」「放電能力」の3点を見ながら選ぶと失敗しにくくなります。
①電圧
電圧は「電気を流す力」のことで、産業用ロボットバッテリーを選定する際は、産業用ロボットに搭載されるサーボモーターに適合した電圧のバッテリーを選びます。
②容量
容量は「バッテリーの中に貯ることができる電気の量」のことです。容量はミリアンペア時(mAh)で表記され、5,000(mAh)の場合1時間に流し続けられる電流は5,000(mA)=5.0(A)ということになります。そのため、たとえば5,000(mAh)のバッテリーで、サーボモーターを動作させるために必要な電流が2(A)なら、
5,000(mAh)÷2,000(mA)=2.5(h) |
2.5時間動作させることができる計算になります。
③放電能力
放電能力は「充放電のスピード」のことです。基本的にCレートで表され、1Cは1時間でバッテリーが空になる放電、または満充電にさせる電流を意味しています。この数字が高ければ高いほど大きな電流を出力できますが、むやみに大容量のバッテリーを搭載しても、サイズや重量、コスト等の面で無駄になることもあります。
④そのほか
バッテリーを選定する際の主なポイントは上記3つですが、もちろん動作温度や電池のサイズ・形状、価格などもきちんとチェックすることが大切です。
どのバッテリーがいいのか迷った場合は、メーカに問い合わせてサンプルを送ってもらうという方法もあります。
(2)バッテリーが切れたときのリスク
ロボットのバッテリーは、定期的に充電や交換をする必要があります。それを怠ってしまうとバッテリーは切れてしまいますが、では切れたときにどういったことが起きてしまうのでしょうか。
損害として大きいのは、エンコーダデータやバックアップデータの消失です。
エンコーダデータやバックアップデータが消失すると、原点を再設定しなければいけません。原点の再設定は、取扱説明書等を参照しながらできるときもありますが、場合によってはメーカやSIerによる再ティーチングへの依頼が必要なときもあります。
このとき、メーカやSIer企業が自社から離れた場所だったり、多忙でなかなか来られないといった場合は、その間ロボットが停止していることになります。おのずと生産ラインもストップすることになり、生産計画通りに製品を生産できなくなるため、大きな損失を招くことになります。
(3)リスクを回避・軽減するための方法
ロボットのバッテリー切れを回避・軽減するための方法は、やはり定期的な点検やメンテナンスを行うことが必要になります。マンスリー毎にバッテリーの消耗具合を確認しチェックシートに記入したり、前回バッテリーを交換した時期が分かるようにステッカーを貼っておくなどをすると効果的です。
また、それでも万が一バッテリーが切れてしまった場合に備えて、定期的にデータのバックアップを取っておいたり、自社で原点を再ティーチングできるように人材を育成しておくのも有効です。バッテリー切れからの早期復旧が可能になり、リスクを軽減できます。
4.ロボットバッテリーの選定や購入を相談したいときにおすすめのメーカ2選
ロボットバッテリーを購入するときは、上記でご紹介した主要メーカと選定のポイントを参考にしながら、自社に適したものをいくつかピックアップし、比較検討するといいでしょう。
ただ、「産業用ロボットと一緒に導入を考えている」「初めて購入をしようとしている」といった場合は、ロボットバッテリーの選定や購入のサポートをしているメーカに相談するのがおすすめです。以下に、2つの相談先をご紹介します。
(1)エナックス株式会社
エナックス株式会社は、電池パックの事業をメインとした企業で、顧客のニーズに対応するために、多種多様な仕様や性能を持つ電池パックを提供しています。カスタム電池の設計から製造までをワンストップで対応し販売も行っています。
- 住所:東京都文京区春日2-12-12 コロネード春日
- TEL:03-5689-0089
- URL:https://www.enax.jp/
(2)株式会社東芝
東芝の電池事業は「SCiB™」を主力製品として、安全性が高く長寿命に加え、急速充電、低温性能に優れてるといった特徴があります。自動車や鉄道、大規模な蓄電システムの分野まで採用されている実績があります。SCiB™のSIPシリーズは、AGV等の自動搬送ロボットに多く採用されています。
- 住所:東京都港区芝浦1-1-1
- TEL:リチウム蓄電システム TEL.03-4574-6876
- URL:https://www.toshiba.co.jp/index_j.htm
5.製造業のWebマーケティングに関するご相談は株式会社ストラーツへ
近年、産業用ロボットだけではなく、身近な場所でもガイドロボットや清掃ロボット等のサービスロボットの導入が進んでいます。ロボットバッテリーの知見は、さまざまな場所で活かすこともできるでしょう。
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