製造業界では、5GやAI化などの技術革新のスピードが早く、自社の現在の市場ポジションを維持することすら困難となっています。変化の激しい世の中では、将来を見越したポジショニング戦略が重要であり、そのためには技術者も参加する技術マーケティングの導入と運用が非常に重要です。
今回の記事では、製造業における技術マーケティング導入の意義やそのメリット、顧客に対応したマーケティング戦略の方策を解説します。また、技術マーケティングの成功事例や運営に際してのポイントについても紹介します。
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1.技術マーケティングとは何か
技術マーケティングとは、自社のコア技術を活かして、「顧客が求めている製品価値」を満たすイノベーティブ(革新的)な製品を創り出し、競争優位性を確保してビジネスを発展させるためのマーケティング手法です。研究部署や開発部署もマーケティングに関わることで、製品の企画段階から競合他社との差別化を図ります。
(1)技術マーケティングを行う意義
製造業における製品の企画から販売までの一連のマーケティングにおいては、経営企画や営業などが戦略策定をするのが一般的でした。しかし、グローバル化やAI・5Gなどのさまざまな技術革新もあり、製品のライフサイクルは短くなっています。競合も増える中、自社のコア技術を活用して他社と差別化することで、マーケットに確固たるポジションを築く必要に迫られているのです。
そのためには、自社技術に精通する研究・開発部署などの技術者が、マーケティングに関わることが重要となっています。
(2)技術マーケティングのメリット
開発・研究などの技術者が関わる技術マーケティングにおいては、大きく2つのメリットがあります。
①新しい顧客価値を創り出せる
実際に製品の開発や生産に関わる技術者は、現状の課題はもちろん、将来的な技術の可能性に関しても知見があります。そのため、顧客の立場に立って求められる製品機能を考えることができ、顧客価値を満たす製品設計や達成に必要な技術を考えることができます。
その結果として、イノベーティブな製品を開発・販売できる可能性も高まるでしょう。
②長期目線での経営・事業戦略を練ることができる
技術マーケティングで重要なのは、顧客価値を満たしたイノベーティブな製品の開発を行うことです。技術革新のスピードが早い状況では、中期スパンでの開発に迫られることが多くなります。
しかし、市場が成熟して競合も多くなった際には、自社コア技術を活かしたドメイン変革が必要になる時が来ます。コア技術を熟知した技術者が関わることで、経営戦略策定の段階で、長期目線で技術イノベーションを達成する計画を練ることができるでしょう。
2.技術マーケティングの戦略と課題
(1)技術マーケティングの戦略
技術マーケティング戦略は、自社が「BtoC」と「BtoB」のいずれの領域かによって、戦略策定と実行内容に大きな違いがあります。
①「BtoC」企業は市場深耕戦略
ユーザが「Consumer:一般消費者」である「BtoC」の場合は、顧客ニーズが顕在化しています。製品は、顧客である消費者の感性によって評価され、市場の変化が早いため、既存の市場を深く追及する「市場深耕戦略」が必要となります。
そのため、製品のコンセプトが重要であり、顧客ごとに分類したポートフォリオの明確化が重要です。
化粧品や一般消費財を扱うような素材・材料系メーカでは、消費者の商品に対する感想やニーズを聞き出すことで、新たなコンセプトとともにイノベーティブな製品が生み出せるでしょう。
テレビや白物家電などを扱う機能複合系メーカでは、研究開発期間が長く開発費も高額になりやすいため、自社が関連している市場での深耕を優先する必要があるでしょう。
②「BtoB」企業は市場開拓戦略
ユーザが企業である「BtoB」の場合は、顧客である企業のニーズが潜在化しており、双方ともに明確でない場合もあります。また、製品に対する評価は「QCD{Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)}」によって判断されます。
そのため、潜在顧客に対するアプローチを通して、将来的なニーズを読み取って製品開発を行う「市場開拓戦略」が必要となります。
潜在顧客である技術者との情報交換が必要であり、ショールームや展示会、学会や自社webサイトでの技術紹介などにより、接点をつくり出すことができるでしょう。技術者同士の関わりによって、さらにその先にいる潜在顧客へアプローチできる可能性があります。
(2)技術マーケティングの課題
①コア技術への理解と技術トレンドの把握が必要
技術マーケティングは、自社のコア技術を活かした市場開拓や市場深耕が必要となります。そのためには、自社のコア技術についての理解を深めるのはもちろん、顧客も含めた市場全体の技術トレンドの把握が必要です。
将来的に予想される技術や市場の変化に対して、自社技術がどのように関わることができるのか、技術的な専門知識が必要となります。
②顧客以上に顧客を知る必要がある
技術マーケティングには、将来的な大規模ポジショニング変革や、市場における新しいポジションを創り出すといった目的があります。そのためには、顧客が抱える課題を知るのはもちろん、顧客の集まりである市場全体がどのような方向性に動いているかを把握しなければなりません。
③マーケティング戦略の意識統一が必要
技術マーケティング戦略は、マーケティングである以上「4P」に関する共通認識が必要です。4Pとは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販売促進)という、マーケティング戦略を練る上で基本となる要素をまとめた言葉です。
たとえば、技術者であれば、「Place(流通)」や「Promotion(販売促進)」への意識が薄くなりがちで、営業は「Product(製品)」開発の理解が不足している可能性が高いでしょう。マーケティングに技術者が関わる意義を全員が理解し、それぞれの役割の重要性を理解し、尊重した上での戦略策定が必要です。
3.技術マーケティングでの成功事例
技術マーケティングには、さまざまな成功事例があります。ここでは、3つの企業の具体的な活動内容について紹介します。
(1)日東電工株式会社
機能性テープ類や液晶光学フィルムで、世界的に高いシェアを誇る日本のメーカ日東電工。
自社技術を熟知した営業マンによる市場開拓型の営業活動に強みがあり、リードユーザの調査も積極的に行っています。研究開発においては、事業部単位でロードマップを共有し、最高技術責任者が各研究テーマへの技術リソース配分を決めています。
(2)スリーエム ジャパン株式会社
スリーエム ジャパン株式会社は、化学・電気素材メーカとして、ポストイットなどさまざまな商品を展開しています。
体感型ショールーム「Material Science&Design」などの運用によって、自社技術を開示しながら市場を開拓し続けています。研究開発はアイデア重視であり、企画発案者をリーダとする「ミニカンパニー」制によって新規製品開発が進められていきます。
また、データベースやテクニカルフォーラムによる異業種技術者間での交流も盛んであり、研究開発の活性化にも繋がっています。
(3)TOTO(トートー)株式会社
トイレに使用する衛生陶器などの住宅設備機器を取り扱うTOTO株式会社。
技術マーケティング戦略としては、ショールーム運営による顧客密着型の営業と、フォーラムや展示会への参加による自社製品・技術アピールを積極的に行っています。また、住宅設備機器に関連する知財収入によって、製品研究開発コストを回収しています。
中期経営計画「TOTO WILL2022」では、グローバル住設事業や新領域事業を掲げ、3つの革新活動によって2022年度の売上高7,200億円達成などを目指しています。
4.技術マーケティングの運用ポイント
技術マーケティングを行う上では、細かい運用を検討する前に重要視すべきポイントがあります。
(1)自社のポジションを明確にする
技術マーケティングを運用する際には、まず戦略の策定が必要となります。その際には、自社の事業形態が「BtoC」は「BtoB」かによって、選択すべき戦略が異なってきます。
市場深耕が重要な「BtoC」では、既存顧客も含めた消費者の反応などの分析が重要です。市場開拓が重要な「BtoB」では、技術的な潜在ニーズを技術者目線で読み取る必要があり、フォーラムやオープンラボなどによる、技術者同士の交流の場を設けることも有効です。
また、自社の市場におけるポジショニングを把握するのはもちろん、マーケティングに関わる技術者は、コア技術の強みや競合優位性を把握しておく必要があります。
(2)経営計画に反映するなどして意思統一を図る
技術マーケティング戦略の策定は、絵に描いた餅にならないように注意する必要があります。それぞれの部署が責任感を持って戦略策定に参画し、お互いの役割をまっとうしながら補完し合う必要があります。
TOTOの事例でも分かるように、技術マーケティングに成功している企業は、中期経営計画にも新規事業計画などの自社技術深堀による事業拡大目標を据えています。長期目線でのイノベーションを目的とするからこそ、中期目標によって自社の明確な方針を共有し、自社内での技術マーケティングの意思統一を図る必要があるのです。
5.製造業のWebマーケティングに関するご相談は株式会社ストラーツへ
製造業界では、将来の顧客価値を見越した上でのポジショニング戦略が重要であり、自社のコア技術に関する専門的知識を持つ技術者も参加する「技術マーケティング」の実践が必要となります。
また、計画倒れにならないように、中期経営計画などの目に見える形で、自社の技術マーケティング戦略を共有することも重要です。
市場開拓戦略をとる場合には、技術者同士の関わりも必要であり、Webサイト上での技術情報共有やオンラインセミナーなどの開催も有効です。
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