砂岩という石・岩があります。砂岩の元はさらさらとした砂です。その砂が、岩石と呼ばれるためには、海の中で、砂の層の上にまた砂の層が積み重なり、数億年という歳月が経った後に砂岩として地上に現れます。その数億年の間、砂の層は加圧され続けているため、岩のように緻密に硬くなったものです。
焼結金属も同じような経緯でできるのかもしれません。比較の対象としてどうかと思いますが、焼結金属の場合も、金属の粉が成形されてある形となってから、焼結炉の中で、高温にさらされて時間が経つにつれて緻密になっていき、焼結金属となります。
このコラムでは、焼結についてご紹介します。
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1.焼結とは
(1)焼結とは
焼結とは、金属粉末の成形品に加圧と加熱(金属が溶ける温度以下)を行い、金属の粉末粒子どうしを結合させて製品を製造する技術です。
日本刀も加工法こそ違え、原理は焼結の1種です。
(2)焼結と粉末冶金
粉末冶金は、粉末状の金属の粉を、成形し、炉で熱を加えることで、成形した金属粉が緻密な金属になる金属加工の1種です。
このコラムでは、特に焼結と粉末冶金を区別することなく書いています。焼結は金属加工の1つの過程として述べています。
2.焼結の工程
(1)焼結の工程
図1と図2では、焼結の工程について、ご紹介します。
焼結を伴う粉末冶金の工程は、金属粉の作成、金属粉の混合、金型成形、金型から金属粉成形体の取り出し、焼結炉での加熱、焼結金属の取出し、焼結金属加工や研磨、検査という工程で焼結品が完成します。
各行程を簡単に紹介します。
- 金属粉の作成
金属粉末とは金属粒子の集まりです。溶けた金属をノズルから高圧で噴霧することで、作成できます。金属製品の種類によっては、数種類の金属を混ぜて使うこともあります。 - 金属粉の混合
金属の粒度分布を均一とするために、混合します。 - 金型成形
金属粉をホッパーから金型に落とし込み、充填します。金型に充填された金属粉は、上下のパンチで加圧されます。 - 金型から金属粉成形体の取り出し
金型で加圧され形を保った状態で、取りだされます。 - 焼結炉での過熱
成形品を加熱炉で加熱し、焼結させます。炉の温度は、初めは油分を取り除くため徐々に温度を上げ、ある温度を一定に保って焼結を保持します。焼結が終了したら、温度を下げて常温に戻します。 - 焼結金属の取出し
焼結の終わった焼結品を炉から取り出します。 - 焼結金属加工や研磨
焼結の終わった焼結品の微細な加工や、研磨を行います。 - 検査
寸法精度、硬さ、密度、顕微鏡による組織などを検査します。ただし、大量生産品は抜取検査で対応します。
(2)焼結のメリットとデメリット
焼結によって得られるメリットと、デメリットを表1にランダムで、ご紹介します。
表1 焼結のメリットとデメリット
メリット | 複雑な形の成形が可能で、加工工程の削減も可能です。 |
金型の量産化によって、製造コストの削減が可能です。 | |
原料の金属粉の使用に、ムダが生じません。 | |
金属内部に細かな気孔ができ、部品の軽量化ができます。 | |
粉末にできればほとんどの材料が使えます。 | |
鋳造では難しい高融点材料や、難加工金属、塑性変形しない材料、反応しやすい材料でも所定の形状の部品の製作が可能です。 | |
セラミックスと金属の複合材料の粉末を混ぜて焼結すると、複合材料の製作が可能です。 | |
デメリット | 大きな部品の成形には適用しません。 |
金属粉の種類によっては、コストがかさみます。 | |
粉末にするので材料によっては高コストになります。 | |
粉末成形品を焼き固めるときに収縮し、寸法精度が低くなります。 | |
用途によっては、気孔で応力集中が起き、強度等の機械的性質に劣ることがあります。 |
(3)焼結で作られるものとは
金属加工の中で、焼結によって作られる製品は、次にようなものがあります。なお、このコラムでは金属粉による焼結体のように書いていますが、金属だけでなく、セラミック製品も焼結の主流の製品の1つです。
また、し、セラミックスと金属のように、材料を組合せた複合材料による焼結製品などがあります。
製品名をランダムに紹介すると、ほんの一部ですが、
- 超硬合金
- サーメット
- 含油軸受け…焼結体に含まれる気孔に潤滑油を染み込ませるた無給油の軸受
- 研削砥石
- セラミック包丁
- フェライト磁石
- 自動車部品(バルブシート、コンロッド、カムシャフトなど)
- 電車のパンタグラフ
- 新幹線ブレーキライニング
- 電動カミソリの外刃
3.焼結のメカニズム
(1)焼結の進みかた
図3では、金属粉が、焼結炉の中で焼結過程の間に、どのように変化していくかを、紹介します。
焼結は、図3のように、初期段階、中期段階、終期段階に分けることができます。
- 初期段階
金属粉末の成形体が加熱炉で高い温度になると、金属粉末同士が接合します。接合部分をネックと言います。ネックは、金属粉末粒子表面や接合部から物質の移動があり、ネック表面に原子・分子がくっついてネックが成長します。 - 中期段階
ネックが成長し、ネック間の気孔はチューブ状となり、互いにつながり、通気性を持っている状況で、この機構を開気孔と言います。 - 終期段階
焼結体の相対密度を95%を超えるまでに緻密化し、気孔は閉じた状態となり、これを閉気孔と言います。この閉気孔は焼結体内部に分散してそんざいし、孤立した状態です。
閉気孔は粒内に取り込まれることや、合体などで縮小化し、焼結体はさらに緻密化します。
(2)焼結のメカニズム
図4では、焼結のメカニズムを紹介します。
拡散という現象で物質が移動しますが、拡散とは、原子やイオンがない穴(空孔と言います)が移動することで起きる現象です。
①表面拡散
粒子表面から表面を通る状態です。
②気相中拡散
粒子表面から気相を通る状態です。
③体積拡散
粒子表面から表面を通る状態です。
⇓
①~③の粒子移動があっても、粒子間距離が変わらないことが特徴です。
④ネック内部から粒子内部を通る状態です。
⑤ネック内部から粒接合部(粒界)に通る状態です。
⇓
④と⑤では粒子間距離が短くなることが特徴で、その結果、焼結体は緻密になります。
4.焼結炉の構造
(1)焼結炉の温度制御
図5では、焼結炉の温度がどのように変化していくかについて、紹介します。
焼結炉の管理のポイントは、
- 焼結温度
- 焼結時間
- 炉内ガス
- 昇温温度
- 冷却温度
です。
焼結炉の温度は、大きく。3つのステップで変えていきます。
- 予熱段階
金属粉に含まれる潤滑成分を加熱によって、飛ばします。 - 焼結段階
金属粉に合った決められた温度を、一定時間キープします。この過程で焼結が進み、図3の終期の状態になり、粉末同士が固く結合します。 - 冷却段階
焼結体を加熱温度から室温まで冷却します。冷却後は、炉から取り出し、製品としての加工と検査を行い出荷となります。
金属粉が完全な焼結体として製品になるかどうかは、この炉の温度コントロールで決まります。昇温時、固定温度のキープ、降温時のどの温度制御でも、決められたとおりに温度制御を行わなければなりません。
炉内の充満されるガスなどの影響もありますが、焼結炉の一番の重要ポイントは、温度コントロールです。
(2)焼結炉の種類
焼結炉にも色々な種類があります。
- 発熱体の種類
- 箱型やベル型のような型式
- 雰囲気ガスの種類
- メッシュベルト炉の連続式か、プッシャー式のように1個づつ処理する方式
など、炉の形態も様々に分かれています。
5.焼結を利用する上で利用したいおすすめの相談先
焼結を用いて製造するには、焼結業の安全や技術だけでなく、経験と実績が必要です。この章では、導入を検討する上で頼りになる焼結の経験が豊富なメーカ、焼結の実績があるメーカについてご紹介します。
(1)株式会社ファインシンター
株式会社ファインシンターでは、経験豊富な技術スタッフが、製品の企画段階から携わり、コストをおさえながら製品の生産を可能としています。図は、摺動部品は粉末冶金の特長を活かした複合材料製品で、エンジン用部品もそのひとつです。
- 住所:愛知県春日井市明知町西之洞1189番地11
- TEL:0568-88-4355
- URL:https://www.fine-sinter.com/
(2)岩機ダイカスト工業株式会社
岩機ダイカスト工業株式会社は、アルミダイカスト製品をはじめ、さまざまなダイカスト製品を製造しているメーカです。金属粉末射出成形法(MIM)という独自の製法で、コンパクトで複雑形状部品の量産を実現しています。図は、左側が連続式焼結炉、右側が射出成型機です。
(引用:岩機ダイカスト工業株式会社・コンパクト三次元複雑形状部品を高精度・高密度に造る)
- 住所:宮城県亘理郡山元町鷲足字山崎51-2
- Tel:0223-37-3322
- URL:http://www.iwakidc.co.jp/index.html
(3)福田金属箔粉工業株式会社
福田金属箔粉工業株式会社の特徴は、金属粉や金属箔それぞれの製品・分野を、既存と新規ふたつの部門にわけていることです。これにより、多様な事業に最適な技術の提供を可能にしています。図は、微細な金属粉末の開発状況です。
- 住所:京都市山科区西野山中臣町20番地
- TEL:075-581-2161(代表)
- URL:https://www.fukuda-kyoto.co.jp/
(4)株式会社ヤマザキ電機
株式会社ヤマザキ電機は、全自動プッシャー式焼結炉の提供をしているメーカです。アフターバーナーや置換室が完備されているのが特徴。脱ろう部のバインダー清掃が長期間不要で、メンテナンスしやすいのも魅力です。
図は、全自動プッシャー式焼結炉です。
(引用:株式会社ヤマザキ電機・焼結分野・全自動プッシャー式焼結炉)
- 住所:埼玉県坂戸市小山123番地
- TEL:049-283-3511
- URL:http://www.yamazaki-denki.co.jp/index.html
6.製造業のWebマーケティングに関するご相談は株式会社ストラーツへ
金属加工には、鋳造加工、鍛造加工、塑性加工などがあります。その中で金属を粉末として、金属製品とする焼結の技術は驚くべきものがあります。
コラムの記事の中でも触れましたが、金属粉の量や質をほんのちょっと誤っただけでも、焼結体は異なるものができます。また、炉の温度をちょっとで上げ方を誤ったり、高温維持時間をほんの数分誤っても、設計通りのものができません。
要するに、焼結体を作るには、長い経験とノウハウが必要ということでしょう。経験はやってみるしかありませんが、ノウハウは多くの焼結に関わっている企業、研究機関があり、多くのノウハウが蓄積されているはずです。教えを乞うことで得られる場合があります。
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